FLY HIGH第2巻〜首長族のマリーにトランポリンを〜

アカ族の村を去った。彼らが新しく来た観光客にダンスと歌を披露している間に静かに離れることにした。どきどきしながら首長族の村へ向かう。 見覚えのある村の造り。首長族の人たちがいる。相変わらず彼らは無表情だ。氷のように笑わない。人形のような挨拶をする。2年前と何も変わらないそのままの村。     

 

ある女の子の前を通り過ぎた時、彼女は私に背を向けて、後ろ向きで機織りを続けていて、挨拶しても完全無視されてしまった。明らかにシャットアウトされた感じ。強烈な無視にどうしたらいいかわからなくて、なにもできないまま私たちは小さな小屋のような一応学校となっている場所に向かった。

 

 

     当時のタイ語の先生がいた。 彼女は私のことを覚えていてくれて、キャー!!と歓声をあげながらハグしてくれた。日差しが眩しいから中に入りなさいって教室にいれてくれた。      

 

マリーとモモはいる?って聞いたら、残念だけどモモは当時チェキで私たちと撮った写真を持ってミャンマーに。マリーもここにはもういない。と言われてしまった。  

   「ここにはもういない・・・」       

そっか・・・もう会えないんだ。すごく残念だったけど、悲しかったけど、仕方ないことだから。それでもせっかく持ってきたから子どもたちと遊べたらいいかなと思って           小さな子達と遊び始めた。おばぁちゃんも大笑いして遊んでくれた。 小さな子どもたちがトランポリンに慣れて楽しみ始めた頃に後ろの方の小屋からさっき完全に私たちを無視した女の子が チラッとこっちを振り返るように覗き込んでいた。

          「・・・???彼女、マリーの顔に似てる?」 と思って隣に座ってみて

      FLY HIGHの本を見せて、 「あの・・・えっと。もしかしてマリー?」って聞いたら恥ずかしそうに微笑んで、小さくコクンと頷いた。名前を聞いたら小さな声で「マニー・・・」って答えた!名前違うんかい!!!マリーじゃなかった! いや、でもいた!!!    

    学校の先生が、ここにはいないと言ったから、てっきりいないと思っていて。 っていうかなんで先生いないって言ったのがさっぱり意味がわからなかったのだけど     

 

「マリーいた!!!!!!  いや正確にはマニーだったんだけど、名前違ってた!笑」 いないと思っていたからびっくりして一緒に来てた3人もびっくりして 「え!?うっそ!」「いるんかーい!」 「名前ちがうんかーい!!!」 みんなびっくり。     

     「チャンダイマイ? 私のこと覚えてる??」 ちょっと照れたような、はにかみ顔で頷く彼女。

 

      「うおーーー!!嬉しいーー!!」 つい嬉しくて、強引にハグしてしまった。笑

 

      あなたにこれをプレゼントしたくて、 あなたの笑顔のおかげで本当にたくさんの感動を日本に届けることができて、私も本当に感謝したくて、だからあの時、あなたがいつかお金が貯まったらほしいってあの時言っていたこのトランポリンをプレゼントしに来たんだ。

     タイ語の先生に通訳を頼むが、残念ながら先生の英語も30%くらいの理解だったのでおそらくあんまり伝わってないなっていう感じで。

     なんだか緊張してこわばっている彼女の顔が見ていて私も辛かったんだけど。 「跳ばない?」と聞くと 彼女は首を横に振った。

 

  先生は「あなたのために持ってきたんだから乗りなさいよ!」 というような感じで半ば強引にトランポリンのところに連れて行かれ仕方なく乗った。ちょっとお姉さんになった彼女は控えめに跳ねてほんのちょっと笑った。首の輪が以前よりも重そうだった。

 

     くすくすっと笑った姿が可愛かった。 キラキラ輝く笑顔というよりは、なんだか少し大人になったような、優しい気持ちがみえるような気がした。     

        そしてゆっくりとトランポリンを降りて自分の場所に戻っていった。    

 

      なんだか。全然想像していた感動の再会とも違くて。 というか完全無視の再会だったし。 いや!勝手に妄想膨らませて期待した私がいけないんだけど! トランポリンも一度だけしか乗らなかったしで。

         その後はマニーに何話していいのかわからなくなっちゃって。他の子達と遊んでいた。       

 

 

         マニー、もしかしたらあんまりトランポリン喜んでないかも。

     これじゃただの押し付けになっちゃう。 サンタになりたかったのに。全然サンタじゃない。迷惑な押し売りみたい。  2年も経てば誰だってほしいものなんて変わるのに。 なんで持ってきちゃったんだろう。 なんだよ完全に、満足したいのは私の方じゃないか。

         ここじゃなくてチェンライにある他の孤児院や別の村、昨日お世話になったさくら寮に置いておいたほうがいいのかな・・・。    

       心の底で血迷う私にぱーにゃが「アカ族の村に置く?笑」と言ってくれた。冗談だったのか本気だったのか私にはそれすらもわからなかった。でもアカ族のおばあちゃん達はトランポリンの上で涙を流してしまうほど、何度も弾んでは喜んでくれたのだ。

 

     マニーは一度しか乗らなかった。  

 

     ぼーっとする私。 曇っていく心。     

 

 

   自分がここにトランポリンを持って来た意味がわからなくなってしまった。        

 

         欧米人のツアー客が来た。 ガイドのタイ人はトランポリンを見て大はしゃぎ、なぜかツアーの欧米人をみんな集めてトランポリンの前で記念写真を撮り始めた。

       タイ人のガイドさんが、ものすごく英語流暢なタイ人だったので、いてもたってもいられなくなって、仕事中だと重々承知の上で話しかけた。     

    「すみませんあのお仕事中ほんと申し訳ないんですけど。 私、実は2年前にここに来て。あの子にトランポリンを飛んでもらって、その時見せてくれた笑顔が本当に素敵で 私があの子の笑顔に救われたんです。  

  その後は本になって、たくさんの感動を日本に届けてくれた彼女にお礼がしたくて 当時彼女がいつかほしいと言っていたトランポリンを持ってきたんです。   でも正直あんまり反応がなくて自分が心配になってきて!!ほんと申し訳ないんですけど。もう少し話がしたくて、突然であれですけど通訳してくれませんか!?!?」     

 

     初めはテンション高めのノリノリに見えていたガイドさんだったが少し話をするととても真剣に答えてくれた。

 

 

彼の仕事はツアーガイドで、多い時は週に5日間もこの村に訪れるのだそうだ。

      「君も知っているだろうけど、彼女たちはこの村から出られないんだ。 彼女達が例えば町の中心地に行ってしまったら、この村が貴重じゃなくなってしまうだろう。 ここにいる人たちはとても不幸なんだよ。そしてとても悲しいんだよ。 だから僕はこの村に来る時はいつも、町で買ってきたお菓子とか彼女たちが喜びそうなものを持ってくるようにしているんだよ。」       

  「この村に、トランポリンなんて持ってくる人がいたなんてね。彼らをただの動物園と同じように動物を見に行くような気持ちで来るんではなくて、こうやって同じ人間としての喜びを共有しようとしている人がいたなんて驚きだ。僕は本当に嬉しい。あなたに会えて僕はとても嬉しいよ。」

     彼は丁寧な英語でそう言って   なんでも通訳するよ。ただし僕もカレン語はわからないから、彼女がわかる範囲の簡単なタイ語でね。      「彼女が話したいことがあるんだって」 そんな風な言葉を話しながらマリーの隣に座る彼。     

 

    通訳をお願いして、もう一度ちゃんと、彼女と話せると思った時 彼女の思いが聞けると思ったし。 私の伝えたいことをちゃんと言えると思った時。

 

      いざ目の前の彼女に、何か聞きたかったことがあったはずなのに 私は全部わからなくなってしまった。     

       自分の中から振り絞った たった一言の言葉がこれだった。    

 

 

 

        “・・・・・・・・i・・ LIKE your smile.”      “i like YOUR SMILE”   “I like your smile!”

 

 

 

 

    私はあなたの笑顔が好きだ。    私はあなたの笑顔が好きだ。    私はあなたの笑顔が好きだ。  

 

 

結局あの瞬間に湧き出た言葉はたった一言だった。 何度他の言葉を探そうとしても、これしか出てこなくて、繰り返して同じことを温度を色を強さを変えて。ただ同じ言葉を届け続けた。  

    英語の伝わるタイ人がいたにも関わらず、きっともっと繊細な丁寧な言葉を使うこともできたのに。     

   日本語から、英語・タイ語・カレン語。幾つもの言語を超えて届くその言葉は 言葉ではない言葉で繋がっていたような気がしている。

 

 

      ガイドさんはマニーに”何か言うことない?”と聞く

 

 

 

一呼吸おいた彼女は一瞬私の目を見て

 

 

     “コップンカー・・・“

   と小さなささやくような声で震える音で”ありがとう”と言った。 これが彼女が口に出した唯一の言葉だった。心の底から出た言葉なのかどうかは、正直わからなかった。                私はタイ語の通訳さんに言った。 「話を聞いてくれて、通訳までしてくれてとても助かった。貴重な時間をありがとう。」    

        彼は言った。 「彼女はね、この村でも特別笑わない。 ものすごく自分の心を開くことが難しいんだ。声をかけてもいつも無視されてしまうんだよ。観光客の目を見ることなんてできないんだよ。だけどそんな彼女が    

      あなたの目をみて言ったんだ。             確かに声はかすかなささやき声だったけど、それでもあなたの目を見て言ったんだよ。僕にだって目を見て話をすることなんてないよ。 たった一言だけどこの一言は、彼女にとってはきっと精一杯だったと思うよ。

              僕はとても嬉しいよ。今度チェンライに来た時は、教えてくれよ。その時はビールを町から買ってきて、彼らとパーティーしよう。僕なら受付を夜でもパスで通れるはずだからさ。」

      そう言って彼はウィンクし、ツアーの欧米人を引き連れ帰って行った。      

 

 

         トランポリンをこの村に置く意味が改めてあっただろうか。 小さな子どもたちがトランポリンに夢中になる姿を横目にこの先この村に置いたこのトランポリンはどうなるのだろうと想像した。       もしかしたらすぐ撤去されてしまうかもしれない。どうなってしまうかは正直わからない。

      でももし、このトランポリンを跳んで遊んでいる子どもたちをマニーがふと横目で見た時。 彼女がいつか子どもを産んで、トランポリンに乗って笑う我が子を見た時に

            その心は、笑ってくれるだろうか。 優しい気持ちになってくれるだろうか。 Say チーズとか、123とか。レンズ越しのそれではなくて。     

 

      私は

あなたの

笑顔が好きだ                           この旅が、FLY HIGH第2弾というこの旅が、 みんな笑ってハッピーエンド。みたいに終わらなかったことに何か意味があるような気がしていて。

       なにかもっと深い世界を 神様が示そうとしてくれている気がして。

      なぜかどこかに導かれている気がして。            何も確かではないけれど       たった一つだけ確かなことは。     

 

 

       だから私は やっぱりこの旅を FLY HIGHを          まだ終われない。          

 

 

 

 

 

     ぱーにゃが数日後日本に帰った。

彼女のテーマは「あなたにとって生きるとは」を聞いて回る旅だったんだけど

今思う私にとってのそれは。

「私はあなたの笑顔が好きだ」と伝え続けることかもしれない。 

 

 

 

 

        帰国イベント 2月3日 石原舞と行く冒険的なご馳走@東京 神保町 2月5日 藤井みのりコラボイベント詳細未定♡

https://youtu.be/36Ebiy4x5PE

   

 

*石原舞インタビュー記事

アセナビ

http://asenavi.com/archives/6169

開発メディアganas

http://www.ganas.or.jp/20160302flyhigh/

 

iammai